法圓寺

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第364回

令和7年11月14日

逆転しない正義

朝ドラ「あんぱん」

  NHKの朝ドラ『あんぱん』が、令和7年9月26日に最終回を迎えました。このドラマは漫画家・やなせたかし氏と妻・小松暢(のぶ)さんをモデルに、二人が「逆転しない正義」を探し続け、模索した結果、アニメ『アンパンマン』を誕生させるというドラマでした。
 やなせ氏を演ずる嵩(たかし)は、第1回の冒頭で「逆転しない正義」について

正義は逆転する。信じられないことだけど、正義は簡単にひっくり返ってしまうことがある。じゃあ決してひっくり返らない正義って何だろう。おなかをすかせて困っている人がいたら、一切れのパンを届けてあげることだ

と語ります。

アンパンマン誕生

 嵩も妻・のぶも、敗戦によって正義が逆転する瞬間を経験しました。それまでの軍国主義が正義だという価値観は一瞬で崩れ去ったのです。その経験から、逆転しない正義とは、「おなかをすかせて困っている人がいたら、一切れのパンを届けてあげることだ」と感じ、それを具現化したヒーローとしてアンパンマンというキャラクターを生み出したのです。
アンパンマンは、自分の顔をちぎってお腹を空かせている人に分け与える。敵であろうと味方であろうと関係なく、見返りも求めない。あんぱんを食べる人を見届け、ヨロヨロと空を飛び立っていく。この「自分の一部を惜しみなく相手に与える行為」が、「逆転しない正義」ということなのでしょう。

我に正義あり

 正義を辞書で調べると「正しい行為。人間行為の正しさ」と出てきます。しかし、時代を超えて、全ての存在に普遍的な正しい行為というものがあるのでしょうか?「飢えた人にパンを届ける」という行為も、ヒューマニズムとしては頷けますが、全ての存在に普遍的な正しいとは受け取られないと思うのです。もし仮に全ての存在に普遍的な正義というものがあったとしても、その正義を私たちは自分に正義があると考えてしまう。そこが問題だと思うのです。もし、逆転しない正義というものあったとしても、その正義も「我に正義あり」とした時に、その正義に手垢がついてしまいます。人助けをしたとしても、人間ならば必ず「助けてあげた」という意識がどこかに出てきます。その時に純粋な正義とは言えなくなってしまいます。
 戦争も正義と正義のぶつかり合いです。しかも、「我に正義あり」と思っているので、なかなか戦争は止められないのです。

我に正義なし

 それに対して、仏教では正義を「しょうぎ」と読みます。「しょうぎ」と読む時は、仏のまなざしで見た正義です。つまり、自分を正当化するために正義という言葉を使いたがる私の姿を教えてくれるものが「しょうぎ」という読み方です。私たちが正義だと思っているものは、結局は自分の都合ではないか、と教えてくれるものが「しょうぎ」なのです。 聞法によって、そのはたらきに出遇えば「我に正義あり」とは言えません。自分の都合でしかなかったと頭が下がるのです。そこに真に謙虚で謙遜な心が回復されてくるのです。「我に正義なし」と教えてくれるのが、仏様の光なのです。

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