法圓寺

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第309回

令和3年5月14日

人間の動物化

関係ない人は風景…?

 最近、親による子どもの虐待がどんどん増えています。その事の背景には、コロナ禍によるステイ・ホームの影響もあるのかもしれません。

 虐待が増えることの理由として、宮城顗(ミヤギシズカ)という先生が「人間の動物化」ということをあげています。

 動物はみな自分のテリトリー、すなわち縄張りを持っています。そこへ何か他のものが入ってきたら、かみついて追い出してしまいます。

 今の若い人たちは、自分の行った場所に自分の領域を作るのだそうです。(これをポータブル・テリトリーといいます)だから公共の場所であっても、ここは自分の領分だとして、自分の部屋にいるのと同じように自由に振る舞うのです。周囲にいる自分の知らない人は、だだの「風景」にしか見えないといいます。そして、もし誰かがそこに干渉してきたら、すぐに排除しようとします。

 その反応は動物と同じです。
 
 そういう反応しかできなってしまったことを、宮城先生は「人間の動物化」と呼んでいるのです。

人間の動物化

 先日もテレビのワイドショーを見ていましたら、ちょうどそのような場面を放送していました。

 そこはバーベキューをしてはいけない場所なのですが、若者のグループが、そこでバーベキューをしていました。テレビのレポーターの方が、「ここはバーベキューをしてはいけない場所なんですよ」と伝えると、そのグループの一人の若者が、「うるさいなあ、お前に関係ないだろう。さっさとあっちに行け!」とテレビのクルーを排除しようとしていました。

 それはあたかも動物が自分の縄張りに侵入してきたものを追い出そうとするのに似ていました。

 そのことは、考えるという心を失って、ただ動物的に自分の領分を主張し、入ってきたものは暴力によってでも排除しようとする反応しかできなくなっていることを示しています。「人間が動物化」しているのです。

 幼児虐待ということも、結局は自分の子どもさえも、自分の領分を妨げるものとしか見えていないことから起こるのではないでしょうか。以前は母親の愛だけは不変のものと思われていました。しかし、今ではその親が、赤ちゃんをビニール袋に入れて殺してしまっています。

 結局それは、自分の領域の中に自分の思い通りにならないものを受け入ていくことが難しくなってきているからではないでしょうか。

思い通りにならないものを受け止めて生きる

 私たちは、小さい時から自分の思い通り生きることが幸せだという価値観で育てられてきました。ですから、自分の思い通りにならない人や物事を一旦受け止めて、そしてそこで、どうしたらいいのか一緒に考えて、その人や物事と一緒に歩んでゆく。そういう心が育てられてこなかったのです。

仏法とは

そういう自分の都合でしか、ものを見ようとしないわが身を問題にする教えです。仏法に出遇ってはじめて、都合の悪いものが、自分の本当の姿に気付かせてくれることに思い至るのです。その時、都合の悪いものを排除するのではなく、それを受け止めて、共に生きる世界が開かれるのです。

 それが本当の幸せなのではないでしょうか。

 この「人間の動物化」ということを、わが身を通して問題にして行きたいと思いました。

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