法圓寺

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第287回

令和元年6月1日

親の最後の教え

『一切なりゆき』

 女優の樹木希林さんが昨年(2018)の9月15日、行年75歳でお浄土へ還られました。その後、樹木さんが生前中に残した言葉を集めた本が文春新書から出版され、ベストセラーとなっています。本の題名は『一切なりゆき~樹木希林のことば~』です。この本に掲載されているどの言葉も大変深いものですが、『「人は死ぬ」と実感すれば、しっかり生きられる』という言葉が、私の目にとまりました。
 そして、その言葉の後に、樹木さんはこう書いておられます。「ゆくゆくは子供と一緒に住みます。面倒はみませんけど、面倒はみてもらいます」と。私はこれを読んだ時、何かわがままな人だなあと思ったのですが、そういうことでないことは、その次を読んでわかりました。「うちの娘なり、婿なり、その子供たちが、私の死に際を実感として感じられる。ずっと離れて暮らしていると、あまり感じられないのですね。『人は死ぬ』と実感できれば、しっかりと生きられると思う」と書いてありました。

現代は死が見えなくなった時代

 現代は、家庭から死がなくなりつつある時代です。病気になれば入院するし、身体が不自由になれば施設に入所して、病院や施設で死を迎えることが多いのです。その意味で、家庭で家族や親戚に看取られて亡くなる人は、わずかになってしまいました。現代の家庭は、元気な人しかいなくなってしまったと言えるのです。つまり家族の死に向き合う機会は減ってしまいました。

親の最後の仕事

 そういう中で、自分の死を子供や孫に看取ってもらうことを通して、子供や孫は、死を頭だけでなく身体と心で感じることができる。また、親しい人の死を通して、自分もいつかは死んでしまうのだということを実感することができるのではないでしょうか。自分のいのちにも終わりがある。そのいのちの厳粛さの前に深く頭が下がった時、逆に今生かされていることへの感動と感謝が湧き上がってきます。生きているのが当たり前だという傲慢さが破られる一瞬です。そのことを樹木さんは『「人は死ぬ」と実感すれば、しっかり生きられる』と表現したように思いました。その意味で、自分の死に様を子供や孫に見せるということが、親の最後の仕事なのかもしれません。
 子供や孫に迷惑をかけたくないという気持ちも分かりますが、親や祖父母の看取りをさせてもらうことを通して、子供や孫は亡くなっていく親や祖父母から、大事な贈り物をもらうのかもしれません。その贈り物によって、生涯をしっかりと生きていけるのではないでしょうか。樹木さんの言葉にそんなことを感じさせていただきました。

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